No.23 ファンが借りるドラマのロケ地となったスタジオ

スタジオ撮影

白い外観、絡み付くグリーンのツタもそのままだった。中はスケルトンになっていて、自転車で乗り入れるシーンは今でも強く印象に残っていた。ここは私たちの青春がそのまま残っている場所だった。「あのままだね」、自販機で買ってきたミルクティーの口を開ける。テレビではオレンジ・コークを飲んでいたのだけれど、それは架空の飲み物、売ってはいないのだ。

「入ってみようか」数段しかない階段を上り、ドアを開けてみる。微妙に内装が変わっているけれど、あのドラマのままだ。スプリングがいかれたようなアンティークのソファ、主人公はいつもそこで眠るのだ。擦り切れたような毛布を被って。

お金はないけど天才的な閃きを持つ、イケメンの探偵。恋人もいない、身内もいない天涯孤独のどこか影のある男。そんな男に呆れながらも、時にフォローを入れつつ地道な調査の積み上げで男の閃きを手助けする助手、ワトソン君役に何年か前のアイドル女優。この2人のコンビが何とも言えない味わいを醸し出していたのだ。

当時、このドラマに大ハマりした私たち。そういう人は多かったようで、深夜という時間帯にも関わらず、高い視聴率をキープしていたのだ。その後映画化の話が出た頃、影のある俳優が死んだ。交通事故だった。数年前のアイドル女優はきっぱりと芸能界から身を引いた。映画版は幻のように消え去った。

私たちは彼の住まいだったアパートを、ハウススタジオでレンタルしたのだ。場所は世田谷、ドラマでは下町という設定だった。この春に高校を卒業して、共に東京の大学に進学する。その一つの区切りとして、夢中にさせてくれた感謝を伝えるために、ここに来たのだ。ハウススタジオで尋ねたのだけれど、今でも時々ドラマのファンが借りると言う。そうだろうな、私たちは目配せしたものだった。

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