No.58 親友のために結婚式のビデオ撮影

高校時代の親友の結婚式のビデオ撮影を頼まれた自分は、早速プラン作りに取り組んだ。結婚式のハレの姿だけを華々しく取り上げるのは、今回に限っては採らない。何故なら自分は彼の学生時代を通じて彼の人となりを知っているし、結婚に至る経緯や彼の覚悟も聞いていた。ありのままのその姿を撮りたい、そう思った。そんな彼が選んだ女性のありのままを撮りたい、そう思った。
「あいつはチャラ男に見えて、実は筋の1本通った良い男だよ」高校時代の友人たちに許可をもらってビデオを回す。よく一緒にグループを組んでいた仲間の1人は、喜んで応じてくれた。彼の語りに同感のしるしを送る。「大学を決める時、あいつは本当は教師になりたいって言ってたんだよな。結局醸造とか発酵とかに行ったけど。あいつの教師姿を見てみたかったような気もするよ」私たちはひそやかに笑った。
リップサービスも社交辞令も無用ですという要望に応えてくれたのは、彼の会社の同僚だ。「仕事は真面目に取り組んでいるよ、当然だけど。営業の仕事を楽しんでいるし、向いていると思う」掌を合わせて、彼は淡々と続けた。「最初は軽いヤツだと思ってたんだけどね。でも付き合いが長くなると、誠実な内側に気づくんだ。取引先も馬鹿じゃないから、それが分かる。スルメみたいな営業マンだな」そして彼はビデオカメラを見つめて言った。「結婚おめでとう!一緒に仕事出来なくなるのが本当に残念だ。酒屋の営業も頑張れよ!また飲みに行こうぜ」
彼の未来の花嫁は、もう少し暖めておきたい。彼女の人柄については彼の同僚に聞いて見当は付いていたが、もう少し彼の周辺を固めておきたい。それにしても、インタビューをしながら改めて感じたことがある。自分は彼の高校時代までの付き合いで、その後の彼についてはほとんど知らなかった。それなのに語られる彼の輪郭に違和感が全くなかった。そして、そんな彼を誇りに感じたものだった。