No.27 愛猫とスタジオ撮影 私ときなこの記念写真

スタジオ撮影

野良だった猫を迎え入れて、もうすぐ1年になる。茶トラの毛皮にちなんで「きなこ」と名付けた。彼はオスだけれど、名前に不満はないようだ。元野良の猫を完全室内飼いにするのは難しい。そう聞いていたので、私は朝夕きなこを散歩に連れ出す。リードで繋いでの散歩だけれど、彼は十分楽しんでいて、逃げる素振りを見せることはない。

きなこは丁度1歳くらい。獣医さんによれば、昨年の夏生まれの子だった。散歩の行き帰り道には、見慣れた店が立ち並ぶ。玩具屋、八百屋さん、コンビニなど。このコンビニでは、たまにきなこのためにおやつを買ったりもする。店員さんも覚えていて、きなこを見ると微笑ってくれる。

実はきなこは2代目で、しばらく前に猫を飼ったことがあったのだ。その子も同じくらいの年齢の子だったのだけれど、元気に走りまわっていたのは3ヶ月程度で、後はぐったりと寝ている日々だった。まるで子供を抱えているように、お腹が大きく膨れだしたのだ。病院に駆け込んで、それがどんなに恐ろしい病気かを私は知った。

余りに突然にその子は私の前に現れ、そして突然逝ってしまった。あの子の写真は携帯の中に数枚、秘かに残されている。私の携帯だけが、あの子が生きた証人だ。草むらで泣いていたチビ時代から、私の腕の中でひっそりと息を引き取るまでの短い人生を証明してくれるのは、たった数枚の写真だけだ。

コンビニの先に、スタジオがある。明るい雰囲気の写真屋さんだ。その前で立ち止まると、きなこも足を止めて毛づくろいを始めた。「1歳記念日」ふと、そんな言葉が頭に浮かぶ。昔は記念日にはスタジオできちんと撮影していたことも。前のあの子が迎えられなかった、1歳の記念すべき日。私はきなこを抱いて、自動ドアから足を踏み入れた。スマホやデジカメで撮るのではない、私ときなこの記念写真。今しかないこの瞬間を撮影しておきたい、そう思った。

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