No.25一生に一度の成人式の記念撮影

病院なんて、久しぶりだった。それもお見舞いで訪れた程度で、それ程親しい人というわけではなかったし。成人式に出席し、慌ただしく私と友人は会場を後にする。コンビニでアイスクリームなどを調達し、成人式用のスーツ姿のまま病院に向かったのだ。
病室を確認して歩く。名札がここだと教えてくれた。声をかけると、Mの明るい声が飛んできた。「怪我はどう?」彼女の左手は包帯がぐるぐる巻きにされていた。自転車に乗っていて転び、手首を傷めたのだ。手術するほどの大ごとではなく、もう明日は退院出来るのだという。ただ、そのせいで成人式に出席することは出来なかったけれど。
「本当にドジっ子なんだから」全く!「一生に一度の成人式に出られなくなるなんて」「まあでも、大したことがなくて良かったよね」。言われっぱなしの彼女が照れくさそうに笑う。友人がアイスクリームを取り出す。「成人式が終わったら、皆で○○屋のパフェを食べに行こうと言ってたでしょ」、これはコンビニで売ってるアイスクリームだけれど。「せめて気分だけでも」、私たちはアイスクリームをすくって食べた。
着物を着る友人も多いけれど、私たちはスーツで参加することに決めていた。両親は不満そうだったけれど、安い物ではないし、そうそう着る物でもないし、スーツなら今後も着る機会はいくらでもある。私たちは自分たちのことを「スーツ組」と呼んでいた。
「記念撮影もしたよ」、「スタジオでやるみたいに、光の調整もしてた」。私はバッグからデジカメを取り出した。「プロのようにはいかないけど、記念撮影といきましょう」。でも、それだと3人一緒での撮影は出来ない。その時、ナースさんが入ってきた。私と友人のスーツ姿を見て閃いたのか、にこやかな笑顔を浮かべている。「私が撮りましょうか」待ってました!怪我した友人を中心に、私たちは笑顔を浮かべてレンズを見つめた。